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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)12075号 判決 1989年9月21日

主文

一  被告は、別紙物件目録記載の不動産について、○○法務局昭和61年12月16日受付第×××××号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  一色定作は、別紙物件目録(編略)記載の各土地建物(以下「本件土地建物」という。)を、もと所有していた。

2  (一) 定作は、昭和54年1月29日に死亡した。

(二) 一色定一郎(以下「定一郎」という。)は定作の長男であり、被告は、定作の養女であり、他に相続人はいない。

3  定一郎と被告は、昭和54年7月26日、遺産分割協議によつて、本件土地建物を定一郎が取得する旨の合意をした。

4  定一郎は、昭和54年8月15日、公正証書をもつて、同人の全財産を一色定治郎に遺贈する旨の遺言をし、右遺言の執行者として原告を指定した。

5  定一郎は、昭和61年11月26日に死亡した。

6  原告は、4の遺言執行者の就職を承諾した。

7  本件土地建物について、被告を所有者とする○○法務局昭和61年12月16日受付第×××××号の所有権移転登記(以下「本件所有権移転登記」という。)が経由されている。

8  よつて、原告は、被告に対し、所有権に基づき、本件所有権移転登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の各事実は認める。

2  同4の事実は知らない。

3  同5の事実は認める。

4  同6の事実は知らない。

5  同7の事実は認める。

三  抗弁

定一郎は、昭和54年8月15日の遺言当時、精神分裂病に罹患しており意思能力がなかつた。

四  抗弁に対する認否

抗弁の事実は否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因について

1  請求原因1ないし3の各事実は、当事者間に争いがない。

2  いずれも成立に争いのない甲第2、第14号証によれば、請求原因4の事実を認めることができる。

3  請求原因5の事実は、当事者間に争いがない。

4  原告が、定一郎の遺言執行者として本件訴を提起したことから、請求原因6の事実を推認することができる。

5  請求原因7の事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  成立に争いのない乙第10号証中には、昭和54年8月15日当時、定一郎に遺言能力がなかつた旨の記載がなされている。

しかしながら、乙第10号証の作成者は定一郎を現実に診察したことがなく、右記載は、遺言作成当時の定一郎の具体的日常生活状態等の裏付けにもとづいて推認されたものとはにわかに肯認し難いうえ、成立に争いのない甲第4号証の2、同第5号証の1、同第11号証、乙第1号証の2、同第2号証の14、並びに証人一色定幸及び同谷津務の各証言によれば、定一郎は、同人の父の死亡した1週間後の昭和54年2月5日に○○病院に精神分裂病で入院したが、定一郎は、その症状も比較的軽く、受入態勢が整えば、退院できる状況であつたこと、同月13日には開放病棟に転棟して作業療法に従事していたこと、○○病院入院当初から病識を有しており、ほぼ安定した状態にあつたこと、同人には知的能力の障害はなく、日常読書を好んでしており、飯合炊さん等のレクリエーシヨンにも参加していたこと、同人の状態が引続いて安定していたため同年8月12日から16日まで外泊許可が出て外泊したが、外泊先でも特に変化はなく、遺言作成当時も同様であつたこと、帰院後についても、室内作業に従事するなど著変なく、概ね普通の状態で安定していたこと、及び定一郎の主治医であつた谷津務医師が、定一郎の遺言能力に疑問をいだかせる症状がなかつたと診断していることが認められる。

右各事実を総合して考えあわせると、乙第10号証の前記記載部分をにわかに採用することはできず、他に抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。

三  以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法89条を適用して、主文のとおり判決する。

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